アイゲリ!

コラム01
ティン・ホイッスルとバウロン





ティン・ホイッスル

アイリッシュ音楽は、基本的にリコーダーのようなクロマチック(半音階)の楽器ではなく、ドレミファソラシドだけで吹くダイアトニックの楽器を使います。これが「簡単だ」と言う第一の理由です。ハープもイーリアン・パイプもそうだし、フィドルも複雑な調子の曲がありません。たいていD(ニ長調)かG(ト長調)なのです。ギターに至っては、あの臨機応変な楽器を、わざわざDやGの調子しか弾けないようなチューニングにしてしまうことがあります。これらの伝統曲は、ほとんどすべてDのホイッスル一本で演奏可能です。

では、なぜ他の調子のホイッスルが売っているかというと、伝統曲以外の演奏に便利だからです。
B♭は、管楽器と合奏する時には便利です。独奏の時は、好みの高さを選ぶという使い道もあります。ジェネレーションのような、非アイルランド系のメーカーの製品にD以外の調子がそろっているのは、伝統曲以外の使い道を重視するからだと思います。逆にアイルランド製(代表はウォルトン)は、Dだけ、もしくはDとCだけという場合が多いです。

長い間、ジェネレーション製しか手に入らないような状況が続いていた。アイルランド人としては、くやしい思いをしていたらしい。そんなものまで世界を市場にする英国商法に独占されていたのですから。それで近年、アイルランド国内生産のウォルトン(あるいはスードラム、フィードッグ)の安価で良質のホイッスルが出た時は、胸がすく思いをしたと言います。彼らはアイルランド製のホイッスルの唄口を緑色にしました(←画像左のホイッスル。右は茶色のボディのギネス)
アイリッシュ・カトリックを象徴するクローバー(シャムロック)の葉っぱの色を誇らしげに採用したのですね。

でも、アイリッシュ音楽をみんなで楽しむには、D管が必要なのでありますよ。安いから、好みのホイッスルに出会うまで、手当たり次第吹いてみればいい、という先人もおります。一理あり。同じメーカーの同じ調子の笛でも、一本一本個性があるのもわかります。ジェネレーション製はバラつきが多く、ウォルトン製は品質が安定しています。……深みにはまるとコワイですよーッ。



バウロン

たぶん、いきなり叩くと「あれ? 音が高いなあ」と思うんじゃないでしょうか。CDなんかで聴く、あの腹に響くような低音とはほど遠い。
それもそのはず。バウロンは皮をゆるめることによって音を作る、めずらしい太鼓なのです。音が高いのは楽器が安いからではありません。

新品のバウロンは皮が固く、張りつめています。一般的にははヤギの皮です。それを自分好みの音に育てていきます。ふつうは皮の裏側に霧吹きで水をかけるか、コップの水を一度太鼓の内側にためて、数秒から数分待ちます。それから水を捨てて、布やティッシュでふき取ります。こうすると皮が湿気を含んで緩みます。この状態で5分ぐらいすると音が安定してきます。
乱暴な人は、水ではなくてギネスビールをプーッと吹きかけたりするらしいけど、これはいい方法とはいえない。カッコいいけどね、楽器をダメにしてしまう。

皮は当然乾くとまた音が固く、高くなります。そしたらまた、水をやる。あまり湿ったままにしておくと、カビが来るから気をつけなきゃいけません。こういうことを何度も繰り返し、バウロン自身が気候や環境、そして持ち主のクセに慣れるうちに、そのバウロンでしか出ない音になっていきます。愛着がわいてきます。

向こうには、演奏者の注文に応じて皮の調整をしてくれるところもあるらしいです。油を与えて、皮に柔軟性を与えるという手もあります。ベビーオイル、ミンクオイル、ピーナッツオイルなどなど、いろいろ試されているようです。

このようにして、世界にひとつしかないバウロンに育っていきます。こういう楽器とのつき合いも、アイルランド音楽の魅力なんだろうな。

写真●集平とクン・チャン。2000年4月大村市 野岳湖

コラム 目次へ戻る