アイゲリ!

コラム03
「シューヘー通信」22号(2000年9月)

インタビュー「R&R SEMINARIO EPILOGUE(前編)」

CD紹介『FUORI CAMPO』





インタビュー
「R&R SEMINARIO EPILOGUE(前編)」
より抜粋

集平 ぼくは今、アイリッシュ・ゲリラと称して、長崎絵本セミナリヨを中心に、みんなで簡単なアイルランド音楽を演奏して楽しもうということをやってる。人に聴かせるようなものじゃなくて、純粋にみんなで楽しむもの。おもしろいのは、こういうことをするときに、いちばん人が参加しやすいやり方は、学校スタイルで、宿題みたいに課題曲を出すことなんだ。インターネットで課題曲を提示すると、それをプリントアウトしたり書き写したりして、学校の宿題をやるみたいに個々に練習してるわけだよ。それで何かの機会に「じゃあ演奏しようよ」となると、みんな楽譜を見て演奏を始めるのね。共通の楽譜があって、それをみんなで演奏してるっていうのがまず第一の喜びなの。ああやって演奏してると楽しいんだわ。ここまではわれわれが知ってる音楽の世界なんだよね。

だけど、実際のアイルランド人は楽譜なしで演奏してる。口伝え耳伝えで年寄りから若者に、若者から子どもにと伝承していくわけだ。こないだ「アイルランド音楽ってほんとは楽譜なしなんだよ」っていう話したら、ちょっとずつ楽譜なしで演奏をしようとする人が出てくる。そうするとこれまでぼくらが保育器の中で音楽を与えられてた、その保育器のカバーがカパッとはがれるわけよ。そっから初めて音楽本来の自由さ、自在さ、そういったものに一歩踏み出せるようになる。これからがおもしろくなるんじゃないかな。

 それと、いろんな人が別のホームページから仕入れた楽譜や、何かの楽譜集からコピーした楽譜を持ち寄るんだけど、同じ曲でも全然譜面が違ってたりする。どれが正しいんだってことになる。実はどれも正しいんだよ。音が多少ずれてても一緒に演奏可能なんだ。そういう音楽ってぼくらこれまでは知らなかった。そのことにいたく感動してる人もいたりして、「音がひとつぐらい違っててもいいと言ってくださって、わたしは感謝しております」っていうメールが届く。それほどまでにわれわれは硬直した音楽しか持ててない。本来音楽が持ってた楽しさや懐の深さが、たとえばロックの太い根っこであるアイルランド音楽に触れることでわかってくる。

ティン・ホイッスルなんて1,000円もしない笛でこんな音楽ができるんだっていうだけでも驚きでしょ。子どもにピアノ習わせるんだったら、そのためにローンを組まなきゃいけない。住宅事情で生ピアノは買えないから、エレキピアノにヘッドフォンで練習、そんなことになっちゃう。ぼくらがいかにそういう型にはめられた考え方しかできてないか、いかに音楽産業や教育の管理と関係があるかっていうことを思うね。

 これはぼくの一貫した考え方で、これまで絵本を上等の画材で描いたことがない。どんな状況に投げ出されても芸術はぼくらの友だちだと思ってるからだ。



CD紹介
『FUORI CAMPO』
 MODENA CITY RAMBLERS


アイルランド音楽を愛するイタリア人たちが、ロックバンドを作ったらこんな音楽になった。1991年結成以来、北イタリアでは安定した人気を誇る。アイリッシュとスコティッシュ、それにパンクロックと東欧、イタリアの伝統音楽のハイブリット・サウンド。民衆音楽をもう一度自分たちの手で掴み直そうという、今もっとも新しい世界的な動きを、ここでも聴くことができる。極東で四苦八苦しているシューヘーにとって、刺激この上ない1枚だ。


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