コラム13
ブラックボックス ①
2009年4月7日
●上に示したのはバッハの無伴奏チェロ組曲第1番、妻アンナ・マグダレーナによる手書き譜、ジーグの一部。三連符のタタタ・タタタというノリが見てとれる。
バッハの組曲(スーツ、パルティータなどと呼ばれる)ではアルマンドに始まってクーラント、サラバンド、そして目先の変わった舞曲を挟んで、早いジーグで終わるパターンが多い。フランス組曲がそう。アルマンドの前にプレリュード(前奏曲)がつく場合もある。イギリス組曲がそう。アルマンドのノリはリールに近い。前奏曲は舞曲ではないがリールっぽいのが多い。タタタタ・タタタタ。ジーグ(ジグ)のリズムの基本はタタタ・タタタだ。
タタタ・タタタのジグはガッガ・ガッガとシャッフルし、タタタタ・タタタタのリールはダダダダ・ダダダダとエイトビートになって、ブルースやカントリーを経て、ロックを生む。ロックはもともと踊るための大衆音楽だ。酒場や体育館のダンスパーティーではいろんなリズムで次々と踊り、新しいリズムが紹介されたり、ゆっくりとした曲でチーク・ダンス、最後には早いリズムで踊り飛ばすんだろうな、多国籍的なバッハの組曲にロックの原型があるともいえる。源流は各地に根づいた伝承舞曲だ。
……というようなことをぽつぽつ書いてきた。今、ぼくがやろうとしているのは、絵本にビートを取り戻すこと。もともと日本語にもリズムがあったし、詩は韻を踏んだものだが、散文的になって歌を忘れたカナリヤになって久しい。庶民文化が生気を奪われていく、あるいは自ら手放していく歴史の中にぼくらはいる。そこからぼくは出たいのだ。
『ホームランを打ったことのない君に』の次に何をやろうか、と思いを巡らせているうちに、そうだ! ジグのように絵本の言葉を書こう、リールのように書こうとひらめいた。ぼくがアイルランド音楽にのめり込んだのは、この仕事のための準備だったのかもしれない。
思わぬ体調不良で中断していたが、ようやくテキストを書き上げた。幼年童話3部作で、1冊目はジグ、タタタ・タタタのリズム。「ぼくは きのう うみに いたよ」というように。2冊目はリール、「ドラメは いつでも どこでも ねている」というように。3冊目の仕掛けは明かせないが、失われた七五調の新規蒔き直しとでも言っておくか。絵本でロックするって、たとえばこういうことじゃない? という提案になればいいなと思っている。
これから編集者と力を合わせて絵本にしていく作業が待っている。絵もいっぱい描くだろう。順調に行きますように。
それと、もうひとつ別の絵本の仕事も動き始めている。作家らしい日々が戻ってきた。やっとのことで。まあ、何もできない時も作家らしいっちゃ作家らしいんだけどね。
今月からは京都造形芸大の授業が始まる。そっちも精一杯がんばります。
写真 ●木製のD菅横笛を吹く集平とピエロの赤鼻つけたクン・チャン。
2001年7月23日長崎市 ペンギン水族館。
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