サルコーデ・ナガサキ
画家の弁●長谷川集平

絵本作家デビューして30年。そのうちの15年を長崎で過ごしました。
いつかは長崎を描かなければいけないだろうという予感はあったのですが、童話館の川端さんからこの仕事を依頼されるまで、それが今だとは思いませんでした。
描く前はプレッシャーでめまいがするぐらいでした。描き始めると、長崎に対する思いがあふれ出しました。春夏秋冬と季節ごとに展示します。どうか、絵の中を散歩してみてください。そして美術館から出て、長崎をあちこち歩いてみてください。その意味も込めてサルコーデ(長崎弁で歩こうよ)・ナガサキという通しタイトルをつけました。

この場をお借りして、ぼくの背中を「サルコーデ」とポンと押してくださった川端強さんに心から感謝します。
以下は春の絵を描いている時、シューヘー・ガレージの掲示板にぼくが書き込んだ文章です。

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今回の個展のための絵は、描く前にふと谷内六郎がサクラ絵の具を使っていたことを思い出して、文具店でサクラマット水彩15色というのを買ってきてそれで描いています。
不透明水彩絵の具です。新作絵本『ホームランを打ったことのない君に』をPaintarというコンピュータ・ソフトの主にガッシュ(不透明水彩)で描いたので、アナログにも移行しやすかったです。ガッシュを実際に使うのは子ども時代以来ですが、透明水彩と違って重ね塗りができますから直しがきくし、暗い色の上に明るい色を置けます。

ぺんてるは色が濁ると聞きましたが、サクラはびっくりするぐらい発色がよくて、使っているうちに15色もいらない、12色でいいや、スーパーで1箱6〜700円で買えるし、なんて思ってましたが、使う絵の具がどんどん減っていって、今ではほとんど青赤黄の3色プラス白黒、それに必要に応じて何かをちょっと混ぜるぐらいになってしまってます。

それだけの色で描いた長串山のツツジなんて、もう天国のような鮮やかさ。この絵では九十九島を向こうに眺めながら、山の斜面一面のツツジの中でぼくがホイッスルを吹き、今は亡き演歌師・桜井敏雄さんがバイオリンを弾きながら「美しき天然」を歌ってます。夢の共演です。サーカスのジンタやチンドンの定番曲「美しき天然」は九十九島を歌ったものです。
他の絵の中では桜ヶ丘幼稚園の制服を着た小さかったころの女房が亡くなったお母さんと並んでニッコリしています。
それぞれの絵の中に長崎と人生を描いています。現実もあり非現実もあります。
あと3枚です。