第3楽章 秋 36 野生の鹿を見た  --------五島市玉之浦町頓泊


 実体験をもとにした。五島の頓泊(とんとまり)海岸に下りてきた鹿と目が合った瞬間にぼくは少年になった。野生の鹿は一瞬で去った。透き通った海を抱く遠浅の砂浜。砂はきわめて細かい。ここに立つ夢をよく見る。

 1984年に初めて訪れたこの海岸が、クレイジーな東京でボロボロになっていたぼくを癒してくれた。山粧う秋、長崎の山眠る冬は短い。