集平セミナリヨ レポート04
集平リモート・セミナリヨ レポート


第4回
『トリゴラス』を語る

2023年7月19日

1978年 文研出版


1978年に出版された『トリゴラス』は、1977年に初めて大阪の文研出版から依頼された絵本、プロとしての初ビジター・ゲームでした。初期の作品は、前作を受けて次を描く、つながりを持たせ連作のつもりで描たという集平さん。『はせがわくんきらいや』と『とんぼとりの日々』はトンボつながり、『トリゴラス』もトンボも空を飛びます。

『はせがわくんきらいや』と『とんぼとりの日々』で社会派絵本作家と決めつけらそうになった。いや、社会をではなく人の心を描きたいんだという思いで怪獣絵本を描き始めます。

1954年に公開された映画「ゴジラ」は核実験で被曝し巨大化したゴジラは銀座の街を破壊しながら歩いていきます。ものすごく怖いゴジラですが、スポンサーの森永ミルクキャラメルのネオンが光るビルは破壊せず見過ごします。その翌年に集平さんは生まれ、森永ヒ素ミルク事件が起きます。
核の恐怖、生々しい戦争の記憶や自然破壊、都市化への後ろめたさを一身に負ったゴジラが、60年代にはウケを狙ってシェー! したり、子どもに媚びるようになっていく。集平少年はがっかりします。やはりゴジラは1本目がいい。
その初代ゴジラとトリゴラスの類似性を示すために『トリゴラス』の表紙はゴジラのポスターを真似て描きますが、下品だと出版社に却下されます。表紙を上品に(?)作り直して出版された『トリゴラス』を当時の教育の現場は嫌悪し、子どもたちは歓声を上げます。

日本のさまざまな怪獣たちへのオマージュ作品とも言える『トリゴラス』の創作秘話、インターネットのない1970年代の限られた画像資料をもとに描かれ、つげ義春や林静一の漫画、アメリカン・コミックなどに影響された各場面についての説明に目が喜びます。

1978年、京都円山公園の野外コンサート後に、共演した歌う精神科医の北山修さんから「『トリゴラス』は人間の心の秘密が描かれている素晴らしい絵本」と褒められたそうです。やっとわかってもらえたと思った集平さん、実は長崎で箱庭療法をしていたクン・チャンのお母さんから、男の子の作る箱庭に怪獣が使われることが多いと聞き、説明を受けたのが『トリゴラス』の裏づけになったのでした。怪獣には男の子が無意識下に隠蔽した全能感が投影されているのはないか、それが箱庭のような表現や夢の中に生き生きと現れる…精神科医・北山修さんは見事にそれを言い当てます。集平さんは制作前から抱えていたヒリヒリもやもやしたものが腑に落ちたそうです。あんなことはめったにないと話されました。

放課後タイムでは、参加者のみなさんからの質問に答える形でスタートしました。前回に続いて参加してくださった学生さんからの技術的な質問と明快な答えには目を見開かされました。また、「集平さんにとってトリゴラスは何ですか? 他の作品にも出てくるトリゴラスは分身ですか?」という質問に「分身というより、影ぼうしかな。壁に映った自分の影が時々トリゴラスの形をしてるんだな」と答えた集平さん、なるほど合点! でした。共鳴、軋轢、笑いと涙…スリル満点の夜が更けていきます。みなさんとたくさんの怪獣たちと、濃厚な時間を過ごすことができたあっというの間の講義1時間と放課後1時間以上! どうもありがとうございました!

貴重な資料や画像・動画などを交えながら、描いた順に自作絵本を語るセミナリヨ、集平さんご自身による絵本朗読も聞き逃せません。これからもたくさんの方とこの豊かな時間を共有したいと思っています。

(齋藤)




異時同図の説明




ボツになった表紙案


裏表紙とデヴィッド・ブロムバーグ「ニューヨークのならず者」裏ジャケ。「キングコング」のパロディ


去っていくトリゴラスと香山滋『ゴジラ』表紙の比較


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トリゴラス・ソフビ