'02年3月24日(日) 滋賀県能登川町立図書館
3月31日(日) 滋賀県愛知川(えちがわ)町立図書館
★文は集平による掲示板(3月26日)の書き込みより抜粋 (写真・曽我祐未)
徐々に、原画に囲まれるような形のライブ会場に機材が持ち込まれ、ぼくはPAの人と楽しいやりとりをした。こんなに人間的な打ち合わせは久しぶりだ。才津原さんが育んできた「場」と、しん平さんが大事にしてきた「関係」がもたらすものなんだろう。
楽器をいっぱいかかえてやってきたしん平さんと、控室で歌っているうちに、急遽ライブの真ん中に登場してもらおうと閃き、お願いする。もちろん、あの大傑作「はせがわくんブルース」をリクエスト。一緒にやりましょう。本番では、しん平さんのパワフルでユーモラスな歌と、ゾウさんギターのホットなブルース・リックが冴え渡った。それに、あの海賊帽!
開演前の会場には、ちなみさんたち、そして三宅興子さん、長崎から「ライブの初めの方で帰らなければいけないんだけど、どうしても来たかった」という、よたこさんたちの姿。午後6時の閉館後、大急ぎで仕組まれたステージ(何もなかったところに魔法のように舞台が現れた)でのリハーサルが始まる。
ライブは……やっているぼくらは感激のあまり、ミスも多かったのだけれど、そんなこと、ぜんぜん気にならない。もう、何もかもがベストでした。筆舌に尽くしがたい。ライブが終わった後、みんなの顔が輝いていた。それで、全部わかった。
130人以上のオープンマインドのお客さん。能登川町は人口2万数千人しかいないけど、参加者のほとんどは地元の人だった。全国のあちこちから、この日を祝福するように集まってくださった人たち。2年半前に大阪で聴いてくれた神戸の人もインターネットで見つけて来てくれている。四日市のメリーゴーランドの増田さんとは7年ぶりに会った。彼も病に倒れ、リハビリして蘇った。握手を、何人としただろうか。心地よい疲れを近江八幡まで持っていって乾杯。
……まだまだ、いろんなことがあった。一瞬のダレ場もない旅。
2年前から長い間、少し歩いたり人と会うだけでぐったり疲れていたクンが、この4日間、ウソのように元気に過ごし、演奏能力も回復したことを神に感謝します。この一週間の回復はめざましかった。
今年に入ってから、やっとふたりで音を合わせることができるようになって、忘れかけていた歌やアレンジをひとつずつ思いだし、クンは筋肉疲労を最小限に押さえる弓の持ち方を工夫したりしながら、24日のライブを目標にリハビリしてきたのです。できるかどうか危ういライブを(無謀にも)企画実行し、ぼくらが後回しにしていた目標を作ってくださった才津原さんのおかげだと思います。ありがとうございました。才津原さんには、心をこめること、成し遂げることの大切さ、しなやかさ、をいつも教えてもらいます。ぼくら、また二人で旅に出られるようになりました。
★文は集平による掲示板(4月2日)の書き込みより抜粋 (写真・才津原哲弘さん)
ライブ。PAの森野さんは町の電気屋さん。剣道をやっていて、九州の武道は別格ですと言う。おとなと子どもほどの差があります。おとなが九州で子どもが滋賀だ。武道だけじゃなくて、文化もそうありたいね。
森野さんに、いろいろ注文を出して音作り。あとで能登川より音が良かったと言われたが、機材は森野さんのは安物だ。マイクはカラオケ用だったし、マイクスタンドは塩ビ製の自作。要するに機材も人材も使いようなのであって、ぼくはいつも自分でPAをやっているから応用がきくけれど、たいがいのミュージシャンは無理だろうね。それで、金ばかりかけたオートマ車みたいな機材がはびこる。結果、人工的で活きの悪い音になる。
きのうの講演会の感触と、きょう集まったお客さんを見て、じっくり話し、じっくり聴かせるライブに切り替えた。先週はシューヘーの2年ぶりのライブだったので、お客さんがどう見ようと、これがシューヘーだ! というぼくらのベストをやっておきたかった。今回は演出が入る。前回はその余裕すらなかった。それで、ぼくらはまた、ああ、こういうところまで回復できたんだと確認できた。
しん平さんとやったヘイヘイブラザーズ、じゃっかん無理強いもあるが、老若男女オールスタンディングだったぞ。ぼくは、ひさしぶりに長崎の歌「猫ひげダンス」を歌った。渡部さんとリエさんに捧げるつもりで。純さん、ありがとう。
ライブの後は、みんなニコニコ。ホールの外でホイッスルの音が聞こえる、と思ったら、吹いているのは才津原さんでした。やるじゃん。
ヘイヘイブラザーズ。麦わら帽子のしん平さんと赤鼻の集平。
ライブのMCでラーメンの話をしたら、渡部さんが最近人気のラーメン屋に連れていってくれた。関西独特のこってりラーメン。うまかった。その後、場所を移して打ち上げ。
先週のライブにも来てくれてた愛知川の人たち、みんな日を追って、顔が輝き、それぞれの個性が際立ってきた。渡部さんはダジャレ連発だし、みんな先週よりおしゃべりになってる。能登川の才津原さんと西澤さんは、肩のコリがとれたように力が抜けている。こんな時、ぼくらはやりがいを感じる。
隣り町にそれぞれ九州からやってきて、素晴らしい図書館を建てた渡部さんと才津原さんは、ゴッホが聖書を題材に描き岩波書店のマークになった、あの、種を蒔く人だ。
いい種が蒔かれ、いい土地の栄養を吸い、神の息が吹き込まれ、草木は伸びていく。風雨にさらされて、姿を変えていく。大事な枝が折れても、後になって見れば、それは成るべくして成された自然の造形であるかのように見えてくる。
セミナリヨとは「苗床」のこと。ここに豊かな苗床がある。けれども、苗は苗床で一生を終えてはいけないのだ。大きく育ち実るためには、いずれ苗床から出なければいけない。そして、実りは地に落ちる覚悟がないならば、お高くとまった木の上で腐り、カラスを喜ばせるだけだ。しかしそのカラスがまた種を遠くに運ぶこともある。生命は循環しているのではなく、どこかを目指しているのだと思う。
みなさん、ありがとう。クンもぼくも、旅に出る前より元気になりました。また会いましょう。長崎にも来てくださいね。