7月12日
7月12日はゆみちゃんの誕生日。長谷川くんと田中くんを家に招待します。
対照的なふたりの男の子とゆみちゃんの特別な一日。
「ねえ、お母さん、田中くんと 長谷川くん、どっちが すき?」 「あんた、長谷川くんのこと すきなんでしょう?」 ドキン、と わたしの しんぞうが うごきました。 「わかる?」
待望の復刊! 読者からよく要望のある『はせがわくん すきや』は、実はこの絵本です。──復刊版の帯より
この絵本に出てくる長谷川くんは……『はせがわくんきらいや』の長谷川くんと同一人物とはいえないまでも、どこかダブっています。その長谷川くんを好きな女の子が主人公。その子の誕生日が7月12日。ぼくの女房の誕生日です。『7月12日』は、ラブストーリーです。──復刊版の帯より
●復刊に向けて着々と準備が進んでいるのは、ぼくの『7月12日』(81年初版)です。
出版社が、せっかくだから7月12日までに出しましょうと言ってくれました。
ぼくはよく『はせがわくんきらいや』もいいけど『はせがわくんすきや』も描いてよと言われますが、実はちゃんとあるんです。それが『7月12日』、ラブストーリーです。 絶版になって久しいので、古書は何千円で取り引きされるケースもあったようです。みなさん、前のバージョンを持っている人も、バージョンアップした復刊版をぜひ買って読んでください。──集平
『7月12日』復刊記念インタビュー
「シューヘー通信」53号(2008年7月)より抜粋
集平 「『はせがわくんきらいや』もいいけど『はせがわくんすきや』も描いてくれ」といろんな人に言われてきたけど、実はすでに描いてる。それが『7月12日』なんだよ。ここには長谷川くんのことを好きな女の子が主人公として出てくる。
クン いつも長谷川くんとゆみが意識しあってチラッと見てたりして、こういう表情、10歳くらいの好き同士の雰囲気がよく描けてるね。それと久しぶりに関西弁で書いてるのね。
集平 ああ。標準語では書けない関西人の間合い、男の子ふたりのやりとりが関西の漫才聞いてる感じがあるじゃない。ボケとツッコミみたいな。『はせがわくんきらいや』だけでは足りないものを描きたかった。第3画面。
クン あらためて絵本を見てすごくいいなあと思った。人物の大きさが自在に変わることで心理描写している。実写じゃできないよ。たとえば第13画面はお母さんがすごく大きくてゆみが小さく描いてある。お母さんに心を見透かされてるこのシーンの心理的な親子関係、お母さんの懐の深さが出てる。目と目をしっかり合わせて。ここが一番好きだな。
あっちこっちに仕掛けがしてある。第1画面で「せみが 2ひき ないている」という文があって、この文自体、ゆみの心理描写、最後に男の子ふたりがセミを1匹ずつ捕まえて来るとか、さらっと読んだら気がつかないようなことがいっぱい入っててびっくりしました。
集平 んははは。
セミが幼虫から孵化するのが好きでね。子供のころよく人の家に忍び込んで見たものだよ。
── ぶははは、人の家ですか。
集平 穴場があるんだよ。じ〜っと待ってたら必ずセミの孵化が見れる庭。友だちとふたりでそこにこっそり忍び込んで、蚊に刺されながら見てた。子どもが成長してくことをこの孵化の絵に象徴させてるんだ。この絵本の中で主人公のゆみっていう子は人を好きになることでちょっと大人になるんだよね。
クン カッコいいから好きになるわけじゃないっていうのがミソなんだよなあ。
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第4画面。
── いいですね、誕生日の一日って。
集平 うん、歌もあるしね。日本人の生活の中に歌があるシーンは案外少ない。誕生日はハッピー・バースデーって歌うじゃない。この絵本のタイトルは『ハッピー・バースデー』だったんだよ。そしたらあかね書房の他の本とダブるからって変更させられたの。でも、結果オーライだね。『7月12日』よりだいぶあと、東京演劇アンサンブルのポスターやチラシの仕事をしてた時、たまたまぼくの誕生日にお芝居を観に行ったことがあったんだけど、芝居のあとに劇団の人たちが集まってハッピー・バースデーを歌ってくれて、劇団名物のもつ鍋をごちそうになった。涙が出そうなほどいい思い出だ。ぼくはクリスマス物語とブルーナの『ちいさなうさこちゃん』の共通性を語ってきたね。子どもの本の中で誕生日の大切さを描くことは必要だと思うんだよ。
----- ----- -----第8画面。
集平 復刊にあたって、この絵本を描いた直後から"しまった"と思ってた部分をちょっと直したよ。それは第8画面の坂を滑ってる絵。ぼくらはよく波板を使って坂を滑って遊んでたんだけど、何か下に敷かないとこの絵が嘘になっちゃう。で、原画に直に描き込んでくださいと言われたんだけど、どうしても手を入れることができなくて、スキャンしたデータにコンピュータで手を入れた。
クン 全然退色してなかったね。
集平 強い光に当てさえしなければ大丈夫。そのデータをもとに最終的には製版の人の手を煩わせることになって、全く不自然じゃない修正になったよ。見てもらったらわかります。だから前の版を持ってても新しく買い直す価値があると思う。
── 色もちょっと変わるんですか?
集平 より原画に近い色になるらしい。リマスターだね。 ◆◆◆
みなさん、前のバージョンを持っている人も、バージョンアップした復刊版をぜひ買って読んでください!