むねがちくちく
童心社・2015年11月20日発売
B5・32頁・1,400円+税


わたしはリリちゃんと日ようびに遊ぶやくそくをしました。40ぷんまちました。リリちゃんはきません。どうしたのかなあ。なにかあったのかしら。家に帰って、リリちゃんの携帯電話に電話をしました。「リリちゃん、いまどこ?」「すいぞくかんのまえだよ」「ええ!どうぶつえんじゃないの?」「なにいってるのよ」リリちゃんは電話をきってしまいました。わたしのせい? なみだがでて、とまりませんでした。むねがちくちくいたみました──。すれちがって、また仲直りして、泣いて笑って生きていく子どもたちを描く。

「下描き用の鉛筆と消しゴム、サクラ・マット水彩用の筆1本、目鼻を描き込む青鉛筆だけで描きました。われながら、せつない絵やね」と集平。
誰にでも覚えのある「むねがちくちく」したことが、ほんわかと描かれています。


ムネチク体験 長谷川集平

 だれかに何かしてしまったり、逆に、してあげられなかったり、言ってしまったり言えなかったり、なさけなくて胸がちくちく痛むという体験を、子どもはいつごろするのでしょうか。ぼくが覚えているのは4〜5歳のころ。みなさんにも幼いムネチク体験があるでしょう。

 胸がちくちく、ずきずき、もやもや……でも自分は悪くないんだとも言いたくなる。だれかや何かのせいにして、ふてくされて言い訳ばっかりしてる自分がまた嫌になって……おとなになっても変わらない気がします。年中、むねがちくちくちくちくしています。

 そんな、いわばムネチクのベテランのぼくが、ムネチク初心者の子どもに言えるとしたら、この絵本のタカおじさんのように「それは失敗だったね。あした、その子に謝ればいいよ。電話やメールじゃなくて、会って目を見て話すべきだね」てことかな。

 実は『むねがちくちく』の最初のテキストには、そう言われた主人公がリリちゃんと向かい合う場面がありませんでした。描かなくてもわかるだろうと思っていたんです。そのシーンをこそ描くべきだと編集の橋口英二郎さんに言われました。咄嗟に「そうしましょう!」とぼくは答えていました。それを言うために会いに来てくれた橋口さんのムネチクとぼくのムネチクが共鳴したんです。そうして描いた和解のシーン、素敵でしょ?

童心社「母のひろば」620号 2016年1月15日発行掲載



新聞記事
2015年12月28日、長崎新聞の文化欄に「やさしく心温める 長崎の絵本作家 長谷川さん新刊3冊」と題して取材記事が掲載されました。
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