インタビュー




絶版本を語る その3 より抜粋


'14年6月13日 シューヘー・ガレージで
集平 =長谷川集平/Guitar Vocal
クン =クン・チャン/Cello Vocal



『アロくんとキーヨちゃん』ブックローン 1990年1月
『とんぼとり』温羅書房 1994年7月
『すいみんぶそく』童心社 1986年1月


『アロくんとキーヨちゃん』……インタビューの途中から
クン 34歳のときに描いた。いい年ごろだよ。
集平 おとなが子どものことをまったくわかってないのもいいね。『7月12日』は「あんたのことはなんでもわかる」と言う母親が出てくるけど、アロママさんは何もわかってない。アロくんとキーヨちゃん2人だけの秘密、それが黒だ。黒が夜を表してるっていうのはなかなかステキだよ。ぼくは親に対して秘密を持ってる子だった。この絵本はそういう子にはいいかもな。親との距離感をうまく持ててない子に対しては、いつまでも親とベタベタしてちゃいけないというメッセージを含んでるね。
 面白かったのは編集者のNさんが連絡してきて、イタリアでレオ・レオーニに『アロくん〜』を見せた人がいるという。「レオーニが真っ赤になって激怒したと伝え聞きましたよ。謝った方がいいんじゃないですか」とNさんが言うから「謝ることないよ。謝ったら逆にシャレにならない」と答えたけど、ああレオーニってその程度かとガッカリしたな。
クン もっと懐深いかと思ってたね。「いいねえ〜面白いよ」って言ってくれるかと。
── 悔しかったんじゃないかな。ヤラレタッ!
集平 逆にぼくは、してやったり。
クン パンクロックが出てきてフラワームーブメントの人たちが衝撃を受けた、そんな感じよ。
── 何がフラワーだ。オレの夢は配管工になることだったんだぞ、と言ったオジー・オズボーン少年。そういう子には『アロくん〜』で決まりでしょう。黒だし。
集平 絵本のブラックサバスということにしておこう。
クン カッコいいよ。

『とんぼとり』
── 『アロくん〜』から'94年『とんぼとり』の間に温羅(うら)書房ができて、'93年『はせがわくんきらいや』復刊。
集平 温羅書房は東京の児童書出版が面白くなかったので、岡山集平塾のバックアップで作った地方出版社。原画がボロボロの『はせがわくん〜』を復刊できたのは、辛うじて面付けする前の刷り出しが残ってたから。ブックローンから出す予定で製版したフィルムを温羅書房で譲り受けて本にしたんだ。『はせがわくん〜』が売れて順調に船出した。次は『とんぼとりの日々』だ、となったけど、こっちは版も原画も紛失して残ってない。
クン 謄写版で刷ってるからボツになった刷りミスは何枚かあるけどね。ブッキングで復刊したときは1冊解体して版下にした。
集平 その方法でやれなくもなかったけど、いっそ絵を描き換えたかったんだ。なぜかというと『とんぼとりの日々』は最初に作ったミニ絵本を見た今江祥智さんに、このまま大きくすればいいと言われて、拡大模写しただけなんだよね。その後デッサンから絵をやり直し、『音楽未満』やキネマ旬報の連載で似顔絵をたくさん描くことで絵のスタイルが変わってきた。『アロくん〜』ではまだ自信がなかったけど、どれくらい絵を描けるかやってみようと思ったんだ。社長のKさんと相談して、『〜日々』の未熟だと思う部分を、絵も文章もやり直すことにした。自分の絵本をリライトするのは、長新太さんが『おしゃべりなたまごやき』で、赤羽末吉さんは『スーホの白い馬』でやってる。
クン ああそうなんだ。
集平 映画ではよくあることだね。「スターウォーズ」も最初に発表したときにできなかったことをCGでやり直してる。絵本でもアリだと思うし、出したあとで気になるところは部分的に描き直してもいいと思うんだ。ぼくは『7月12日』が復刊されるとき1枚だけレタッチしてる。特に温羅書房みたいなインディペンデントではそういう実験は大いにやるべきだよ……つづく

アロママさん。おしろいをはたいている部分が色なし。眼鏡の表現がすごい。


シューヘーのパンクファッション。集平は血みどろ。クンは「ロッキー・ホラー・ショー」


『とんぼとり』第7画面。『とんぼとりの日々』第7画面は右画面に消しゴム、左画面に靴下を脱いでいるところだけだったが、ここではポケットから肥後の守を取り出して細工しているところを描いている。


『すいみんぶそく』第11画面「だけど、おじいちゃんは霊柩車に乗せられて行ったきり 帰ってこなかった……」この絵を描くために霊柩車の研究をした。子どもの本では珍しいシーンかもしれない。『新ちゃんがないた!』佐藤州男・作、文研出版、'86にも葬列の絵がある。
 (全部読みたい人は通信を申し込んでね

戻る